研究概要 |
前年度の酸化タングステンに引き続き本年度はチタン酸鉛について研究した。チタン酸鉛薄膜をゾル・ゲル法により作成した。出発原料は酢酸鉛の三水和物,チタンテトライソプロポオキシドおよび2-メトキシエタノールである。脱水過程およびアルコキシド源液の合成等通常の過程を経て前駆体ゾルの合成を行った。デイップコート法によりシリコンウエファー上に積層した。膜厚は母液の濃度により制御した。単層膜の厚さは50〜150nm程度である。積層を繰り返し,より厚い膜を作成した。330℃で5分間熱処理することによって含有している有機物を熱分解し,さらに550℃で1時間程度アニールして結晶化させた。X線回折及び強誘電ヒステレシスループの観察により,チタン酸鉛が育成されていることを確かめた。 透過電子顕微鏡観察により膜厚(t)とグレインサイズ(φ)を決定した。グレインサイズは,膜厚が1000nm以上では1000nm前後とほとんど変化しない。膜厚t=7000nmではφ〜300nm,t=400nmではφ〜100nm,そしてt=300nmではφ〜50nmと急激に減少することがわかった。 フーリエ変換赤外分光計により4〜1000cm^<-1>の赤外吸収スペクトルを測定した。グレインサイズが1000nm以上の試料ではパルク結晶のものとほぼ同様の吸収パターンを示すが,それ以下のサイズの試料では振動数領域200〜300cm^<-1>,500〜600cm^<-1>及び780cm^<-1>の吸収バンド強度が弱くなる。一方,80cm^<-1>に観測される強誘電ソフトモード,いわゆるスレーターモードの吸収強度が急激に減少している。さらに,グレインサイズ100nm以下ではこのソフトモード振動数の減少がみられる。 これらの実験結果からグレインサイズ1000nm及び100nm近傍において結晶構造の変化が起こっている可能性が高いことが明らかになった。また,チタン酸鉛薄膜についてはグレインサイズ1000nm近傍での構造変化についてはTakashigeらのアモルファスから熱処理により結晶化した試料のラマン散乱の結果とよい一致を示すが,100nm近傍における結晶構造の変化についてはIshikawaらのアルコキシド法により作成された微粒子におけるラマン散乱の結果とかなり異なっている。すなわち微粒子においては10nm付近で結晶構造の変化が観測されている。グレインサイズの決定をより正確に行う必要がある。
|