研究概要 |
一次元磁性体は,有限温度では長距離秩序状態が出現しないため,低温においてもスピンの揺動がおさまらず,三次元における長距離秩序状態とは異なったスピンの振舞が観測され,量子効果も顕著になる.ここで例としてあげるのは,S=1(Sはスピンの大きさ)の一次元ハイゼンベルグ反強磁性体において低温で基底一重項状態が生じるハルデン効果,および,S=1/2の一次元強磁性体において発見された量子スピン揺動による磁場中相転移である. 一次元ハイゼンベルグ反強磁性体において,スピンが整数のときは基底状態と励起状態の間にエネルギー・ギャップが生じ,基底状態は非磁性の性質を持つ一重項になるとの予測がハルデンによりなされた.そこでS=1一次元反強磁性体におけるスピンの振舞が精力的に研究されることとなり,とりわけNi^<2+>(S=1)を含んだ有機化合物であるNENPがモデル物質としてよく調べられた. 一方,擬一次元強磁性体であるCsCuCl_3の秩序状態においては,12T付近で磁化の跳び観測されていたが,古典スピン系のモデルでは説明がつかなかった.これは一次元量子スピン系においては,量子効果によるスピン揺動のため,強磁場中では相転移を起こして,別のスピン構造になった方が安定である場合もあり得ることが示された.CsCuCl_3における磁化の跳びはスピン構造の転移に伴うものであると考えられている。 ここではNMR(核磁気共鳴)の手段を用いてNENP,およびCsCuCl_3における量子スピン効果の観測を行った.NENPは他の実験からは,ハルデンの予測通り基底状態が一重項で非磁性的であり,ハルデン効果検証のモデル物質とされてきた.筆者達は陽子共鳴により,外部磁場に誘導された大きなスタガード磁化を観測し,NENPが単純な基底一重項ではないことを指摘したこと,また,CsCuCl_3において磁化の跳びに相当する磁場で^<133>Csの核磁気共鳴によりスピン構造の転移を直接検証したことが主たる成果である.
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