研究概要 |
量子固体である固体ヘリウム4と固体ヘリウム3は,量子交換相互作用と零点振動による特徴ある性質が期待でき,大きなフォノン間相互作用と,格子点近傍の単一粒子的運動が予想される。 固体ヘリウムのフォノンの研究は,20年前頃盛んに行なわれた。米国のベルツハーマー等が,フォノンの分散関係と,1次および2次ラマン散乱スペクトルの理論計算を行った。分散関係については、当時行なれた中性子散乱の実験結果とよく一致した。1次ラマン散乱は当時の実験で確認されたが,2次ラマン散乱のスペクトルの微細構造は観測されなかった。 この研究では,我々は実験条件を従来より大幅に改善して固体ヘリウム4のラマン散乱の観測を行った。すなわち,ヘリウム3クライオスタットを用いて温度を0.7Kに冷却し,分光器の分解能を1.1カイザーまで上げ,多チャンネル光子計数検出器で全スペクトルの同時計測を実現した。その結果,7.39±0.06カイザーに1次ラマン散乱ピークを観測するとともに,10から45カイザーに2次ラマン散乱を観測し,そのスペクトル中に4つのピークを明瞭に分離観測することに成功した。それらのピークは,それぞれ,17.1,20.9,25.2,30カイザーで観測された。理論によれば,2次ラマン散乱のスペクトル構造は偏光条件で敏感に変わる。そこで,入射光と散乱光の偏光条件を種々変えて測定したところ,理論と定性的によく一致する結果が観測された。これらの研究成果により,2次ラマン散乱が量子固体の有力な研究手段であることを実証し,量子固体研究の新しい展開を可能にした。 この研究成果は、日本物理学会で口頭発表し,米国フィジカル・レビューB誌に発表し,第19回低温国際会議でも発表の予定である。
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