フォトンエコー分光法を使い、色素・ポリマー系における電子格子相互作用の弱い系の探索、その物理的機構の解明を続けた結果、色素蛋白質が極めて電子格子相互作用の弱い、特異な系であることがわかった。色素蛋白の中で、ミオグロビンについて詳しい測定を行い、ホワンリー因子、デバイワーラー因子の温度依存性、零フォノン線幅の温度依存性が決定出来た。ホワンリー因子0.08はこれまでに知られている色素・ポリマー系の中で最も小さな値である。またデバイワーラー因子の温度特性に影響を与えるフォノンモードは 25cm^<-1> のモードであり、フォノンサイドバンドのピーク周波数にほぼ一致している。この値は中性子散乱から求めたフォノン状態密度のピークとも一致している。一方零フォノン線幅の温度特性は、高温部(10K以上)で二次の電子格子相互作用によるラマン過程が支配的であるのに対し、低温部では電子・TLS相互作用が支配的になることが明らかになった。即ち、10K以下では蛋白のconformational substate(TLS)間のトンネリングが零フォノン線の幅を決めているが、温度が10Kを越えるとフォノンが熱的に励起され、そのフォノン散乱によって幅が決っている。色素蛋白の電子格子相互作用が極めて弱い理由として、色素が蛋白のポリペプチド鎖の作る疎水的環境に閉じこめられていることが重要であると考える。事実、この色素(プロトポルフィリン)を有機溶媒に溶かした試料で測定を行うと、電子格子相互作用が増加することが観測された。また他の3種類のポルフィリンで置換したミオグロビンにおいても、結合が弱くなることを確かめている。
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