研究概要 |
本研究の目的は、高輝度・高分解能イオン分光法を実現し、分子の高励起状態を調べることである。当初高圧ガスをノズルから噴出し、断熱膨張領域で電子衝撃によってイオンを生成して単色で大強度のイオンビームを生成することを計画していた。4年度に行った予備実験で、イオン加速領域の真空低下により電荷移行反応がおこりかえってイオンのエネルギー巾が広がることが判明した。それ故、解体されていた既存の高分解能イオン分光装置を改良して高輝度をはかった。平成4年度と5年度前半で改良が終了し、従来に比べ約3倍のイオン強度が得られた。 2.5keVのHe^+をN_2,Co分子に衝突させエネルギー損失スペクトルを測定した。分解能60meVで0-16eVの範囲でスペクトルが得られた。N_2分子の場合には12-16eVの領域で高励起安定状態への遷移によると思われる多数のピークが観測された。この領域では、解離状態またはイオン化に判う広いピークはほとんど観測されず、イオン分光法が高励起安定状態の観測に有効であることが示された。 さらに、H_3^+イオンを希ガス(He,Ne,Ar,Kr,Xe)に衝突させエネルギー損失,利得スペクトルを測定した。損失,利得側共に0-1eVの範囲でH_3^+の回転-振動-電子状態が結合した励起,脱励起過程によると思われる巾の広いスペクトルが観測された。損失,利得スペクトルの強度がほぼ等しいことから、H_3^+の約半分が励起状態にあることを示唆している。また標的がAr,Kr,Xeの場合には、エネルギー損失10eV付近に巾の広いピークが観測された。これ等のピークは標的原子の励起と衝突イオンH_3^+の励起・脱励起が同時に起る過程によると考えられ、高い励起状態への衝突粒子-標的粒子同時遷移の初めての観測と思われる。
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