研究概要 |
岩石試料を1軸圧縮試験すると,過去に試料に印加されたことのある,あるいは印加され続けていた応力の影響が試料の非弾性歪に認められる.このような非弾性歪に認められる過去の印加応力の影響を一般に岩石が持つ応力の記憶と呼ぶ応力の記憶を調べるために開発された変形率変形法(DRA)をボーリングコアに適用すると,試料が受けていた地殻応力の絶対値が分かることが示唆されている.しかし,岩石が応力の絶対値を記憶として持っているということを岩石の非弾性変形に関する従来の知識で説明することはできない.したがって,本研究の目的は,1)岩石が応力の絶対値を記憶として持っているということを現場の試料を用いて確立すること,2)絶対値の記憶を説明できる仮説を提案すること,3)仮説の有効性を実験的に確かめること,である.本研究では,a)ボーリングによって得られた深さ842mまでの岩石試料にDRAを適用して鉛直応力の大きさを調べ,その大きさが計算で求められる被り圧とほぼ等しいことを確かめた.b)岩石は長時間ほぼ一定の応力である地殻応力中にあるために,弾性的には不均質ではあっても岩石中の応力場は地殻応力で均一化されているという仮説の提案した.また,この仮説が成り立てば岩石試料を1軸圧縮によって地殻応力の絶対値を測定できることを理論的に明らかにした.長時間一定応力を印加し続けた試料を圧縮試験すると,印加応力がこの応力に等しいとき試料のコンプライアンスが極小になることがこの仮説から予測される.c)岩石試料を3日間以上一定応力で印加し続けると期待されるようなコンプライアンスの低下が生じることを実験的に確かめた.(a)から(c)の結果は,岩石が応力の絶対値を記憶として持っていること,応力の絶対値の記憶は岩石試料内の応力場が均一化されることによって説明できることを意味している.
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