研究概要 |
本研究における最大の課題であった,エンタルピー・体積の同時測定が可能な高圧下断熱型熱量計がようやく完成した。エンタルピー測定に関する部分は従来の方法とほぼ同様であるが,高圧に耐え得るよう,肉厚が約2mmの銅-ベリリウム製円筒型試料容器(重量約650g)を用いている。体積測定に関しては,試料容器内部にベローズを取り付け,試料の体積変化によって生ずるベローズの変位を測定するようにした。実際には,磁石がステンレス棒でベローズと連結しており,その変位をクライオスタット外部の非接触型のマグネットセンサーで読みとる(分解能0.1μm)。高圧の発生は手動の油圧ポンプにより行うが,圧媒体には,ポンプ内はケロシン,圧媒体隔離器と試料容器内ベローズの間はブタノール(高温用)または3-メチルペンタン(低温用),試料と接する部分は,フロリナートを用いることにした。以上の構造で100-375Kの温度範囲(分解能100nK),0-200MPaの一定圧力下(精度0.01bar)で測定可能である。空の試料容器の熱容量測定の精度は0.02%内であった。標準物質として選んだ水の測定から,本装置は0.2%以内の熱容量確度,5×10^<-5>%の体積測定精度を持ち,構造緩和過程の研究に十分有用であることが判った。 装置製作と平行して,エンタルピー・体積同時測定の予備実験として,1-プロパノールと3-メチルペンタンの温度ジャンプガラスと圧力ジャンプガラスのエンタルピー緩和の測定を,既設の高圧下断熱型熱量計を用いて行った。有効緩和時間の時間変化の解析から,両者に明らかな差を見いだした。 現在,ポリスチレンのガラス転移点近傍でのエンタルピー緩和と体積緩和の同時測定を準備中である。構造エントロピーや自由体積の時間変化を見積もり,その関係から内部パラメータ理論の有効性を検討したい。
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