研究概要 |
一般に観測値は平均値の周りに激しくゆらいでいる。このゆらぎの中には被測定系の動的情報が内包されている。ゆらぎは時系列の上ではランダムであるがフーリエ変換して逆空間(周波数の上で)みるとスペクトルとして有意義な情報をくみ取ることが出来る。われわれはこの「ゆらぎ分光法」を水/油/界面活性剤三成分系に応用し、相転移にともなう電導度ゆらぎを測定した。被測定系は(1)水/トルエン/Triton X-100(非イオン性界面活性剤)および(2)水/イソオクタン/AOT(陰イオン性界面活性剤)である。(1)についてはすでに公表(J.Phys.Chem.,94,3726-3728(1990))したので、ここでは(2)について報告する。この系については国枝らが詳細な相図を発表しているので、それを参考にして実験条件を設定した。(1)で用いたのと同様な電導度セルからの信号を極低雑音増幅器(PAR #113)で増幅,濾波した後,FFTアナライザ(小野測器CF-360)で演算した。これら科研費で購入した機器のおかげでS/N比は約5倍向上した。AOT2%を含むいろいろな水/油比の混合物について相図の境界線に沿って測定した。組成を一定にして温度を上昇させると境界線(45℃付近)よりやや上で急激な電気電導度の上昇が観測された。これはさきに観測した(1)の系とは逆の傾向である。そこは低温側が油連続で,相境界を横切ると高温側で水連続に急変するところである。わすがな熱力学量のゆらぎが拡大されて電導度の大きい変化として観察されたものである。log(power)vs,log(frequency)plotの勾配は転移の中点付近で1.2,中点から上下に3度も離れると0.1(高温側),0.2(低温側)であった。スペクトルのロレンツplotから求めた緩和強度と緩和周波数はそれぞれ転移の中点で最大値と最小値を取った。このことから相変化の中点位向かってcritical slowing downが起こっていることがわかった。この種の研究は今後も続行し、集大成する必要がある。
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