研究概要 |
本研究では,極めて高い分解能(1cm^<-1>)で,励起状態分子のレーザー光イオン化を行い,しきい光電子(運動エネルギーがほぼゼロ)の捕集を行い,カチオンラジカルの低振動モードを明らかにすることであった。低振動モードは分子間相互作用や置換基相互作用に敏感だから,その情報を引きだすことができる。そこで,二台の波長可変レーザーを組合わせ2光子イオン化を起し,分子から放出する「しきい光電子」の強度を第二レーザーの波長の関数として測定するという方法を用いた.このとき第一レーザーの波長は測定分子の最低励起一重項状態の種々の振動準位のエネルギーに一致するようにとった.測定対象としては,パラジメトキンベンゼン分子およびアルゴンとのファンデルワールス分子(Arが1個または2個付着)を取り上げた.用いた真空装置および「しきい光電子」の測定技術は以前本代表者らが分子科学研究所で開発したものである.その結果,次の成果が得られた.1:1錯体1:2錯体のシス型とトランス型回転異性体のS_1励起状態を経由して,イオン化状態の低振動モード9プログレッションを多数測定することができた.得られた断熱イオン化ポテンシャルの値は次のようである.まずArの付着しないフリーな分子では,シス型60774±7cm^<-1>,トランス型60563±7cm^<-1>,1:1錯体では,シス型60687±7cm^<-1>、トランス型60479±7cm^<-1>,さらに,1:2錯体では,シス型60509±7cm^<-1>,トランス型60295±7cm^<-1>であった.これらは,国際的にもきわめて高い精度のイオン化ポテンシャルであり,しかもアルゴンのファンデアワールス錯体の分子内回転異性体のシス型・トランス型のイオン化ポテンシャルが明確になったことの意義は大きいと考えている.本実験は超音速ジェットの条件で光イオン化を行ったものであるが,カチオンラジカルの低振動モードを実験的に決定するすぐれた手法であることがわかった.
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