研究概要 |
有機強磁性体の設計指針を得るために、スピン源としてπイオンラジカルを有する共役系分子について基底スピン多重度を実験的に検証した。高スピン状態種の内で、形式的なラジカル中心が書ける、いわゆる非ケクレ分子についてのみこれまで研究の焦点があてられて来た。本研究は新しいタイプの高スピン種についての知見と言える。 非ケクレ分子においてスピン整列が起こるのは、縮退した非結合性軌道があり、交互的なスピン分極の結果ラジカル間に平行スピンが誘起される対称性において、スピン多重度の高い方が基底状態となるからである。ところがπイオンラジカル種ではこの2点が実現される保証がない。そこで、高スピン非ケクレ分子の形式的ラジカル中心と同じ場所に高いスピン密度を持つπイオンラジカルでかつSOMO軌道間のエネルギー分裂の小さいイオン種を設計、合成した。 1,3-ジ(9-アンスリル)ベンゼンを五塩化アンチモンで酸化してジイオンジラジカル種とする。このジラジカルの凍結溶液のESRスペクトルは典型的な三重項種のパターンを示し(D=53G)、6.5-85Kの範囲でシグナル強度は温度の逆数に対し直線性を示した。この事はこの三重項種が基産状態であることを示している。 同様にして、1,3-ジ(1-ナフチル)ベンゼンを金属ナトリウムで還元して得られるジイオンジラジカル種についても三重項が基底状態であることが分かった。 イオン源としてはこの他にTTF骨格、β-ジケトン、ケトン、チオフェン、チアントレンなどのイオン種についても検討した。 これらイオン種は共役π系ポリマーを高濃度に電子ドープ又は空孔ドープしたことに対応し、応用性の広い新しいタイプの高スピン種の実現に向けた大きな成果が得られたことになる。
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