研究概要 |
純粋培養したシャットネラの藻体に含まれる魚毒活性成分の検索および構造決定を行なった。まず,(i)シャットネラの藻体をエーテル,酢酸エチルおよびクロロホルムで順次溶媒抽出した。各画分を,ヒメダカに対する致死活性を指標として,ゲルろ過および高速液体クロマトグラフィーにより分画・精製した。その結果,いずれの画分からも魚毒活性成分として遊離脂肪酸を単離・同定した。遊離脂肪酸の組成は,C_<16>,C_<18>およびC_<20>の飽和および不飽和の脂肪酸であった。それらのうち,ステアリドン酸(C_<18:4>)は最も強い致死活性(LC_<100>=7ppm)を示した。また,これまで致死活性がないとされていたパルミチン酸(C_<16:0>)もpH8.1において強い活性(LC_<100>=10ppm)を示した。ついで,(ii)遊離脂肪酸による魚毒活性発現機構の解明をはかった。まず,炭素数18の不飽和脂肪酸類の魚毒活性を比較した。また,抗酸化剤(α-トコフェロールおよびアスコルビン酸)が活性に与える影響も調べた。C_<18>の不飽和脂肪酸は,不飽和度が高くなるにつれて活性が高くなった。しかしながら,抗酸化剤の存在下では活性が著しく低下した。これらのことから,不飽和脂肪酸による毒性発現機構は,藻体の不飽和脂肪酸の自動酸化によって発生するラジカル種が生体膜を損傷することによっていると考えられた。一方,飽和脂肪酸のミリスチン酸(C_<14:0>)とパルミチン酸は,pH8.1において不飽和脂肪酸と同程度の強い活性を示した。しかしながら,pH4.5では活性が低下した。このことは,これらの脂肪酸が水に難溶であり,溶存量が少ないためと考えられた。これに対して,溶解度の大きいデカン酸(C_<10:0>)とラウリン酸(C_<12:0>)の活性は,pH8.1よりpH4.5の方が強かった。飽和脂肪酸(C_<10>〜C_<18>)pKaはいずれも4.9であることから,pH4.5では70%以上が非イオン型として存在している。したがって,飽和脂肪酸による致死機構は,溶存している非イオン型の飽和脂肪酸と生体膜の疎水的な相互作用が考えられた。
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