研究概要 |
微生物が産生するメゾランチオニン,トレオ-β-メチルランチオニンを含むランチオニンペプチドが数多く単離構造決定され,抗菌活性,抗ウイルス活性,免疫増強作用,酵素阻害活性など多様な生物活性ゆえに注目され始めてきているが,その試料の供給は必ずしも満足すべき状況にはなく,ナイシンが,化学的に全合成されたのみで,他のペプチドについては合成された報告はない.その理由として,ランチオニン環形成反応,もしくはこれらのペプチドの中によく認められるデヒドロアミノ酸を含むペプチドの合成には困難な点も多く,固相合成法はもちろんのこと,液相での合成でも多くの制限がありその合成は非常に困難なものとなっている.今回,我々はその生合成経路にヒントを得て,リーダーペプチド部分を持たない,すなわちプロペプチドそのものを基質として,酵素反応で求むるランチオニンペプチドが得られるかどうか可能性を探るために以下に述べる研究を計画し,ランチオニン形成酵素を単離するべく主として放線菌類および乳酸菌について計49種の菌についてスクリーニングした結果,数種の菌体抽出物が3-メチルランチオニン生成を示すことを確認し,汎用性が高いことも明かにした.さらに,シスタチオニン合成酵素などの補酵素として知られているピリドキサル=5'-リン酸を加えた反応を行ったところ,それまで同時に生成していた3-MeLan異性体の生成が抑えられ,天然型threo-3-MeLanの生成量が増加し,この化合物の明かな添加効果が認められた.現在,この菌体抽出物よりランチオニン生成を促す物質の単離精製を進めている.また,上記部分精製物をナイシン前駆体と反応させ5種のランチオニン環をもつナイシンへの変換を試みたところ,その反応物中にHPLC上で天然ナイシンに相当するピークが認められた.このことは,この方法が複雑なランチオニンペプチド合成法の1つとなり得る可能性も示すことができたものと考えている.
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