研究概要 |
マンガン(II)、コバルト(II)、ニッケル(II)および亜鉛(II)イオンを用いて、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)中において尿素(UR)、チオ尿素(TU)から、またアセトニトリル(AN)中において1,1,3,3-テトラメチル尿素(TMU)、1,1,3,3-テトラメチルチオ尿素(TMTU)から生成する錯体種を決定し、更に錯体生成の熱力学的パラメータを得た。 DMF中における尿素錯体の生成は発熱反応であるが、逆にチオ尿素錯体の生成は吸熱的であり、いずれの金属イオンも硫黄原子よりも酸素原子とエンタルピー的に親和性があり、金属イオンのハードな性質を示す結果が得られた。 AN中におけるTMUとTMTUの一連のモノ錯体の生成のエンタルピーを比較すると、マンガン(II)イオンは酸素原子との親和性が最も高く、逆に硫黄原子との親和性は低く、顕著なハード性を示す結果が得られた。コバルト(II)イオンと酸素原子の相互作用はマンガン(II)程は高くはないが中程度であり、硫黄原子との親和性は低い。ニッケル(II)イオンは酸素、硫黄原子とも最も親和性が低い。亜鉛(II)イオンと酸素原子の親和性はコバルト(II)イオンと同程度であるが、亜鉛(II)イオンは硫黄原子とも比較的強く相互作用し、ソフト性も比較的強い。このように金属イオンによる酸素および硫黄原子との親和性に顕著な相違が観察され、金属イオンと配位子の供与原子との親和性を単純にハード・ソフト性(HSAB)で記述することの危険性が示された。 DMFおよびN,N-ジメチルアセトアミド(DMA)中において、マンガン(II)、鉄(II)、コバルト(II)、ニッケル(II)、銅(II)、亜鉛(II)イオンの溶媒和構造を決定した。これらの金属イオンは6配位八面体構造であるが、DMA中において亜鉛(II)イオンは6配位八面体と4配位四面体の構造平衡にあることが明らかとなった。
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