研究概要 |
一次元ハロゲン架橋混合原子価錯体は大きな非線形光学効果、ソリトンやポーラロンに基づく物性、金属ー絶縁体転移、非常に強い電子ー格子相互作用に基づく高次の共鳴ラマン、発光など独特の物性を示すことから近年、一次元電子系の典型物質としての基礎研究や新しい光学、電子素子への応用へ向けての研究が盛んに行われている。これらのバンドギャップは一般の半導体のような構成成分の電子準位のエネルギー差によるものではなく格子歪や電子間反発により1個のバンドが分裂して出来たものである。これらの構成要素(M,X,L,Y)を様々に組合せることによりそのバンドギャップを紫外から赤外領域まで変えることができる。このように光機能を担っている主鎖のバンドギャップが格子変形や電子間反発等によって生じているため、光学的、電子的性質は有機配位子の種類、高次構造、状態変化等の影響をあらわに受ける。そこで有機分子の多様性や機能性を活かし、外部応答性の分子を配位子として導入することにより新しい物性を開発することが可能である。 有機配位子としてπ-ドナー性の強いピリジンをもつ一次元鎖化合物K_2[Pt(py)X_3][Pt(py)X_5].2H_2O(py=pyridine;X=Cl,Br,I)を合成し、このうち塩素化合物の構造解析を行った。a軸方向に一次元鎖が伸びている。いずれの化合物も金属光沢を持ち、可視部から近赤外部に電荷移動吸収帯が観測され、Cl>Br>Iである。この化合物のバンドギャップはπ-アクセプター性のNO_2^-を配位子として持つ化合物やσ性のNH_3を配位子として持つ化合物に比べて小さくなっている。このことはピリジンのπ-ドナー性が強いためPt上の電子密度が高くなり、そのためon-site Coulomb interactionが大きくなったためであると考えられる。これらの化合物において、ピリジンの吸収する光をあてながら、一次元鎖上の物性の変化についての実験を現在行っている。
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