反磁性金属原子を通した常磁性化学種間の磁気的相互作用はほとんど無いと考えられている。しかしながら、軌道の対称性・エネルギー準位が許せば、磁気的相互作用が誘起されると考えられる。本研究では、有機ラジカル(ニトロキシドラジカル(図 IMpy))が反磁性金属(Cu^1・Zn^2・Ag^1)に配位した一連の有機ラジカル金属錯体を合成し、その構造・磁性について詳細な研究をおこなった。その結果、次のことが、明らかになった。 (1)有機ラジカル銅一価錯体 反磁性金属である銅一価錯体[Cu(im-opy)_2](PF_6)において、二つのニトロキシドラジカル間にかなり強い強磁性的相互作用(J=+30cm^<-1>)があることを見出した。これは、配位したニトロキシドラジカルの磁気的軌道がお互いに直交するためであり、この反磁性金属を通した磁気的相互作用(特に、強磁性的相互作用)の発見は、今までの磁気化学の常識を覆するものである。 (2)有機ラジカル銀一価錯体 銀一価錯体[Ag(im-opy)_2](PF_6)では、分子間および分子内で弱い反強磁性的相互作用(J=<-10cm^<-1>)の存在が見出された。分子内の反強磁性的相が作用の発現は、ラジカルの磁気的軌道の直交性が崩れたためである。また、[Ag(imph-NO2)_2](PF_6)では(右図)、ラジカル間電荷移動相互作用・静電的相互作用により、自己集合化した蛇行した一次元構造をもつ集合体が得られた。この系をうまく利用すれば、磁気的に興味ある分子集合体の構築が期待される。
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