研究概要 |
数種の植物を餌とする昆虫が、植物の種内変異と種間の差異をどの様に認識して食草を選択するかを、エゾアザミテントウとその食草であるチシマアザミとルイヨウボタンを用いて調査した。越冬成虫を用いた食草選択実験と幼虫の飼育実験によって、チシマアザミとルイヨウボタンがエゾアザミテントウにとっては一連の変異幅の大きい餌資源となっていること、及び、テントウムシはこの一連の変異系列の中から、植物の分類学的違いとは無関係に、生存により適した植物を選ぶことを示唆する結果を得た。しかし、野外に設定した調査区内で、室内実験に使用した株の実際の利用状況を食害率と被産卵率の2つの基準で査定し、室内での選好順位と比較したところ、野外ではかならずしも実験室内で好まれた株が利用されているわけではなかった。このことは、野外における実際の食草選択には実験室内で測定できる選好性や生存率以外の要因が関与していることを示唆する。これらの要因には、餌植物の空間的な配置、現存量、昆虫の環境選好性、昆虫と植物の生活史の同調性などが考えられ、それぞれの要因がどの程度関与しているかを解明することが今後の課題である。一方、エゾアザミテントウと近縁なヤマトアザミテントウとルイヨウマダラテントウがアザミとルイヨウボタンを食いわけつつ共存している北海道南部から、アザミ類(マルバヒレアザミ,ミネアザミ?)とルイヨウボタンを採取し、札幌周辺のチシマアザミ、ルイヨウボタンを加えて、エゾアザミテントウによる予備的な選択実験を行った。得られた結果は札幌周辺のアザミ・ルイヨウボタンを用いた場合と同様であった。しかし、北海道南部には複数種のアザミがあり、テントウムシの利用状況がアザミの種によって明らかに異なることも明らかになったので、この地域における食草利用状況やそれに関わる要因の解明には、より詳細な調査が必要である。
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