小笠原諸島には多くの固有植物が産するが、このほかに他の地域の植物と形態的分化があまりおきておらず、広域分布種とされている植物も産する。本研究はこれまで蓄積した小笠原産固有種とその近縁種との遺伝的差異にくらべ、同諸島に産する広域分布種の小笠原と他の地域の集団間の遺伝的差異がどうであるかを明らかにする目的で行なわれた。小笠原諸島に分布する広域分布種としてテイカカズラとウラジロエノキを選び、テイカカズラは沖縄の石垣島と本州の知多半島の2集団、ウラジロエノキは石垣島の1集団をサンプリングし、小笠原諸島の集団との遺伝的差異を調査した、遺伝的差異は酵素多型分析によりNeiの遺伝的同一度を計算することにより比較を行なった。 テイカカズラでは8酵素14遺伝子座について解析し小笠原集団と他の集団の遺伝的同一度の平均は0.786であった。ウラジロエノキについては8酵素15遺伝子座について解析を行ない集団間の遺伝的同一度として0.732の値を得た。 これまでの小笠原の固有種と周りの地域の近縁種間の遺伝的同一度はアゼトウナ属で0.533、トベラ属で0.647、ハイノキ属で0.538であったが、今回の研究で得られた2種の広分布域種の値はこれらの固有種と比べて高い値を示した。これは今回調べた2種の広分布域種が小笠原諸島に進入した時期が固有種になった植物の祖先に比べて遅いか、あるいは両集団間になんらかの遺伝的な交流があるかどちらかである。いずれにせよ、形態的な分化の低さは遺伝的にも分化が進んでいないことを示している。
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