研究概要 |
環形動物貧毛類イトミミズ(Tubifex hattai)第1卵割の分裂装置は卵の中央で形成され、紡錘体はその一方の極にのみ星状体を備え、他方には見いだされない。この分裂装置の非対称構造は分裂装置形成にただ1個の中心体が関与することに基因する。星状体はこの中心体から形成される。中心体は卵由来であり、複製することなく第1卵割周期に入る。イトミミズの中心体は構成成分としてγ-tubulinを含む顆粒状構造であるが、星状体の欠如した極にもγ-tubulinが検出される。同様の紡錘体の非対称構造は卵を細長く変形してもつくりだされ、分裂も不等割となる。ところが、第一極体放出を抑えると第一卵割は等割となる。この場合、星状体は両極に備わっており、第1成熟分裂紡錘体から由来する2個の中心体がともに第1卵割に参加している。以上のことから、イトミミズ第1卵割の不等性は分裂装置の非対称構造によってもたらされること、この非対称性は分裂装置自体に内在する要因によってつくりだされていること、更には、他の動物で知られているような分裂装置を偏在させる機構がイトミミズ卵には欠如していることが示される。イトミミズ第2卵割は、第1卵割とは対照的に細胞表層からの働きかけによってその不等性を獲得する。即ち、分裂装置の一方の極が第1分裂面に接着した場合にのみ分裂装置構造が非対称となり、分裂も不等割となる。この細胞表層との相互作用を遮断すると、分裂装置は対称構造をとり,分裂も等割となる。イトミミズ第1卵割機構はこれまでに例をみない極めてユニークなものである。一方、第2卵割機構は広く動物界で保存された機構のように見える。
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