研究概要 |
バフンウニの孵化酵素はRed-agaroseとSuperose12HRを用いて電気泳動的にほぼ均一なものを調製できた.20匹の雌ウニから約100μgという比較的良好な収量ではあるが,構造レベルの研究には十分な量ではない. 酵素前駆体を単離する試みはうまく行かなかった.再度試みるつもりであるが,酵素前駆体の体外分泌と活性化の双方にCaが必須であるとすると,非常に困難であると思われる. 精製した孵化酵素を27℃で18h放置すると分子量が37Kから32Kに減少し,これにともなって受精膜溶解活性が著しく減少するのに対し,カゼインやヒトα_1-プロテイナーゼインヒビター(α_1-PI)に対する非特異的な蛋白質分解活性はそのまま保持することを見いだした.減少した分子量5K分の断片はおそらくC末端側のドメインで,この部分が受精膜に対して高い親和性をもつために,孵化酵素が受精膜に特異的に結合してこれを溶解することができると考えられる.この断片を単離して早急に構造を決定する予定であるが,逆に,受精膜の方にも,これと特異的に結合する特定の蛋白質があると思われるので,それもアフィニティクロマトで単離し,阻害剤としての作用も検討したい. 酵素前駆体のプロペプチド領域にはシステインを含む保存性の高い配列がある.このCysが活性中心のZnに配位して活性の発現を抑えている.この配列を持つペプチドAc-Pro-Arg-Cys-Gly-Val-Pro-Asp-Val-NH_2を合成した.このペプチドは可逆的ではあるが,ウニの孵化を阻害し,0.5mM以上で3-5h遅らせた.α_1-PIを基質としたとき,このペプチドとAla^6-置換体は孵化酵素をよく阻害するが,D-Cys^3-置換体は全く阻害せず,このシステインスウィッチペプチドの阻害作用が立体特異的であることが明らかになった
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