研究概要 |
本研究では,地質時代に生成した黒鉱鉱床と現成の海底熱水性鉱床の酷似する生成過程および成因に注目し、特に両者の鉱石中にみられる鉱物組織の比較検討を行い,その成因を明らかにすることを目的としている.おもに各種黒鉱鉱石の鉱物組織観察とその系統的分類を実施し、中でも鉱床全体に普遍的に分布する閃亜鉛鉱の組織と組成の対応関係の検討および空間分布の追跡を試みた.その結果,それぞれの組織変化に対応した明瞭な組成変動が認められた.また,秋田県松峰鉱山上位黒鉱鉱床では,3タイプの鉱石が区分され,それらの空間分布と組成変動に一定の規則的な傾向があることを明らかにし,黒鉱鉱生成後の続成過程に起因する組織変化の重要性を見いだした.一方,秋田県深沢鉱山金山沢東衛星鉱体の坑内における詳細な鉱石の産状観察と系統的なサンプリングおよび補足的な鉱体を貫く数本のボーリングコアの採集を行い,併せて室内における鉱石の肉眼・顕微鏡観察を行った.その結果,黒鉱鉱石は6種類が大別され,それらの鉱体内での空間分布が明らかになった.ここでは,不安定な斜面上で形成された初生的な黒鉱鉱石は,その後の崩落・滑落により,現地点まで再移動・再堆積したものと考えられる.また,その起源は鉱石の産状と空間分布から,現鉱体の東部北東部方向と推定される.一方,鏡下観察では,シリカマトリックス鉱における玉随質石英の基質部充填組織や,黒鉱鉱石中の閃亜鉛鉱に黄銅鉱病変組織が普遍的に認められる.前述の事実を考慮すると,二次的に再堆積した黒鉱鉱石では,さらにその後も継続した熱水活動に伴う鉱体内の熱水循環により,上述の特異な鉱石組織が生じたと考えられる. 海底熱水鉱床産鉱石との比較検討を行うために,東太平洋海膨(EPR13°N)のものについても鏡下における鉱物組織観察を行った.その結果,いくつかの類似点・相違点が認められ,その相違点は,鉱床形成後の続成作用を始めとする後生的な作用が原因と推定される.
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