研究概要 |
本論文では,第1章において電波応用の歴史的な研究経過や課題を記し,次に,双曲線とレーダのそれぞれの航法について電磁環境の問題の概要と本研究の社会的な背景を述べた.第2章では,ロランC電波の陸地近傍での振舞いを明らかにした.海岸近くではロランC電波が陸地で反射するので,入射波に反射波が重畳して約750〜800mの間隔で電波が速くなったり遅くなったりしていることがわかり,また,数値計算によってもこの現象を説明した.その結果,陸地に近い海上では,伝搬速度の遅速が時間にして約±0.1μsとなるので,距離に換算すると少なくとも約±30m位の船位誤差が起きることを示した.第3章,第4章では,海洋架橋に起因するデッカやロランC電波のじよう乱について述べた.瀬戸大橋に代表される巨大架橋から発生する2次放射波の発生メカニズムを理論的に解明するためにデッカ電波を利用して実験を行い,じよう乱源はつり橋を支える2本の主塔であることを明らかにした.次に,両主塔をそれぞれ微小垂直ダイポールアンテナとみなし,船上における受信電界を求める理論式を導いた.微小垂直ダイポールアンテナの静電容量は,電界強度の測定結果から0.2μF程度と推定でき,南備讃瀬戸大橋は静電容量が0.2μFの微小垂直ダイポールアンテナが2本並んでいるアンテナ系とみなすモデルを確立した.次いで,単一ロランC送信局からの位相測定を行い,架橋に起因する位相誤差を求めた.その結果,橋の両側約200mから1,500mの広い範囲において,電波の到来方位角にも関係するが位相誤差が時間にして±0.2〜±0.4μs程度となるので,距離に換算して±60〜±120m程度となる大きな船位誤差が起きていることがわかり,数値計算からも説明した.第5章では,本論文について総括し,結論を述べた.
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