セラミックス溶射皮膜の応用進展を阻害している低密着性の解明、ならびにその改良指針を明かにした。溶射皮膜の密着機構の発現要因は、 (1)機械的な噛み合い結合力、 (2)化学的な反応による界面での新しい化合物の形成、 (3)溶射物質の基材への拡散、 (4)ファンデルワールス力、等が考えられるが、溶融液滴の凝固速度の速さ、及び界面をグリット・ブラステイングを用いた粗面化による強度の向上等から、殆どが(1)であると推察される。これまでは、皮膜の密着強度がセラミックスー金属界面の表面粗さのみによって議論されてきた。しかし、表面粗さがある程度以上に増加すると強度が低下する実験結果にたいする説明が困難であった。本研究において、ブラステイング処理を施した界面の異なるスケールのSEM観察から、界面の微視的形態が自己相似性を持つことを推察し、画像処理を用いて界面のフラクタル次元を測定した結果、ブラスト処理面は明瞭なフラクタル次元を有すること確認した。さらに、フラクタル次元と皮膜の密着強度は比例関係にあり、フラクタル次元は表面粗さとは独立な界面形態の物理量であること確認した。さらに、表面粗さが大きすぎる場合の密着強度の低下は、フラクタル次元の低下によって引き起こされたものである結果を得た。それゆえ、セラミックス溶射皮膜の密着強度は界面の表面粗さよりはフラクタル次元によって評価するのが適当であり、機械的な噛み合い結合力によって発現する密着性の向上には高いフラクタル次元の界面創成が有効である結果を得た。
|