研究概要 |
本研究では,ラングミューア・ブロジェット膜作製装置を用いて作った配向性が優れた脂質膜(LB膜)と脂質を多孔性の膜へ吸着させて作った膜の2種類を用い,これらの特性を調べた。その結果,以下の事実が明らかになった。 1)5種類の味物質に対するLB膜の膜電位の応答は明瞭に異なっており,この結果から,5つの味をLB膜で識別できることが示された。特にLB膜は配向性が良いことから,膜の表面状態を推測することが可能であり,味応答の理論的予測が可能となり,今後味覚センサ受容膜用のLB膜設計の指針を立てることができると期待される。 2)応答の閾値は,酸味物質では約1μM,塩味物質では約0.1mMであり,これは生体系よりかなり低い濃度である。つまりLB膜を受容部に用いた味覚センサは人よりも高い感度を有することが示された。 3)脂質膜の相転移に由来する電位の自励発振に伴った構造変化を光学顕微鏡でみることに成功した。 4)脂質膜の自励発振においてカオスを誘起することに成功し,さらに理論解析も試みた結果,脂質の相転移とイオンの流れが結合した非線形ダイナミクスであることを明らかにした。 5)カオスは種々の味物質へ大きく特異的変化を示し,5基本味にそれぞれ異なる応答をした。つまり,非線形ダイナミクスを用いた味の識別と認識が可能であることが示された。 これらの結果はすべて世界で初めて見いだされたものであり,本研究により脂質LB膜を用いた味覚センサの基礎ならびに脂質膜のカオスを利用した味の認識の実現へ大きく近づいた。
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