研究概要 |
球面状の集束音源によって単一周波数の正弦波音波を発生させると,音波が焦点に向かって伝搬するにしたがい,主に媒質の弾性的非線形特性を反映してその音圧波形がひずみ、高調波を発生する。一方,媒質の弾性的非直線性を表す音響的非線形パラメータは物質の,特に生体組織の,キャラクタライゼーションに有用であると期待されている。本研究では第2高調波の発生度合を観測することにより,超音波顕微鏡の構成要素である集束音波の焦点に微小体積の生体試料を挿入してその非線形パラメータを測定する方法を開発する理論的・実験的検討を行った。これは、本研究者が既に提案している集束音波を用いた非線形パラメータ測定法を,より高周波の超音波の場合に適用して試料体積を微小にする試みである。本研究ではまず,前に提案した方法の測定精度について,試料の線形特性の測定,試料の寸法と挿入位置,受波器の設定位置などの誤差,および試料の速度分散性や音波照射に伴う温度上昇が非線形パラメータ測定に与える影響を,KZK方程式の逐次近似解を用いた数値解析と実験により調べた。その結果,1.9MHzの試作実験装置での測定誤差は±15%以下にでき,大きな試料を用いる従来の有限振幅法とほぼ同程度の測定精度を得ることがわかった。高周波化しても,減衰定数が周波数にほぼ比例する生体試料では,同程度の精度が得られる。一方,高周波化により焦点後領域にビーム幅より十分小さい受波器を設けることが困難になる対策として,ビーム幅より十分に大きな平面状受波器で観測した場合の非線形ひずみ音圧の基本波・第2高調波成分の特性につきKZK方程式を基礎にした理論解析とその実験的検証を行った。その結果に基づいて,有限開口受波器での観測結果から挿入試料の非線形パラメータを測定する方法を新たに提案した。この方法の検証のため,現在,20MHzの測定装置を製作している。
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