研究概要 |
本研究では,色情報表現の最適性をはかる基準として冗長度最小化原理に着目し,こうした原理に従って視環境に適応する神経回路モデルを構築した.視覚神経系における色受容は,3種の錐体により行なわれることが知られているが,これら錐体による三原色表現は,その感度特性が互いにオーバーラップしていることから,それらの応答の相関が高くなるため,極めて効率が悪い色情報表現となっている.そこで,生物学的にも妥当と考えられている反ヘブ学習によって,こうした三原色表現から,冗長性の低い色情報表現への変換を適応的に実現する神経回路モデルを構築した.その結果,学習により得られた色表現が,実際の視覚神経系においてみられるような反対色表現となっていることが明らかとなった.さらに,学習により得られた色表現と色恒常性の関係を調べるために,異なる3種類のスペクトル組成を持つ照明光を用い,視環境の変動を表現し,提案モデルが実現する色恒常性の度合を,色差を用いて定量的に調べた.その結果,提案モデルは照明光の色が変動することを,色表現の冗長度の増加により感知し,さらに照明光の色に適応的に順応することにより,ヒトと同程度の色恒常性を実現できることを明らかにした.これにより,最適な色情報表現を学習により獲得するという,従来の色恒常性モデルには無かった新しい観点から,色恒常性現象を説明できることを示した.
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