本研究では弱酸性域における方解石の溶解速度に及ぼすリン酸イオンおよびフタル酸イオンの影響について実験を行い、その結果、方解石が溶解する際に方解石表面および反応境膜内において起きる主な現象についての概要を把握することができた。以下に本研究によって得られた知見を示す。 1.pH5においてリン酸イオン濃度が10^<-5>mole/dm^3以下では化学吸着による表面被覆により方解石の溶解速度は減少する。 2.pH5においてリン酸イオン濃度が10^<-3>mole/dm^3以上では方解石の溶解速度は増大する。 3.方解石の溶解反応は水素イオンおよびフタル酸イオンの拡散によって支配されている。 4.フタル酸イオンを付加することにより、溶解速度の水素イオン濃度依存性は大きくなり、これは、反応境膜内で起きるフタル酸イオンの緩衝作用による。 なお、リン酸イオンによる方解石の溶解速度の増加も同じ原因によるものと考えられる。 天然水中のリン酸イオン濃度は平均的に10^<-7>mole/dm^3程度であるが、生活排水などによりその濃度が10^<-6>mole/dm^3付近に、あるいは局所的にはさらに高い値に達することもあり富栄養化などの問題を引き起こす原因となっている。本研究では、土壌や湖底堆積物中に含まれる主要鉱物の一つである方解石が、弱酸性領域において引き起こす様々な現象を検討することで、地球規模の炭素循環において炭酸塩岩とリン酸イオンには密接な関わりがあることを示した。
|