研究概要 |
1. 市販の高純度鉄(東邦亜鉛製)を冷間圧延した後,本科学研究費補助金で購入したターボ分子ポンプを用いて超高真空中で熱処理した.この熱処理に伴う試料の汚染をまず調べた.油拡散ポンプを用いた熱処理と比較して,熱処理による試料汚染は軽減されたが,炭素,窒素,クロム,ニッケルの不純物濃度は増加した.クロムとニッケル濃度の増加原因は,熱処理炉の構造(ステンレス鋼からの汚染)にあると推測されるので,現在その構造を改良中である。 2. 高純度鉄を母材として,ひずみ焼鈍法で高純度鉄単結晶と双結晶の作製を試みている.現在のところ数mmの結晶粒径の鉄試料は容易にできることがわかったが,水素の拡散係数が測定可能な大きな結晶粒径の試料の作製はできていない. 3. 純度の異なる種々の市販の鉄試料中の水素の拡散係数を,278〜318Kの温度範囲において電気化学的透過法で測定した.焼鈍した99.99%以上の純度の鉄試料中の水素の拡散係数は,測定誤差範囲内で同じであった.水素の拡散係数の測定値を従来の結果(鉄中の水素の拡散係数に対する合金元素と転位の影響)から考察し,(1)かなり高温で熱処理した試料であっても転位の影響は無視できないこと,(2)ほぼ99.99%以上の純度の鉄試料であれば,不純物の影響は無視できること,(3)転位と不純物の影響を受けていない鉄中の水素の拡散係数の温度依存性は,5.8×10^<-8>(m^2/s)exp(-4.5(kJ/mol)/RT)で表わされることがわかった. 4. 単結晶と双結晶試料の作製ができていないので,水素の拡散係数に対する結晶粒界の影響については現在のところ不明である。
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