研究概要 |
構造上ゼロ熱膨張機構を内在し,かつ軸異方性を持たないポルーサイト(CsAlSi_2O_6)鉱物に注目し,このポルーサイトの粉末合成法の確立,ゼロ熱膨張機構の調査及び結晶構造と熱膨張の関係について検討した. 出発原料にCsNO_3,Al_2O_3ゾル及びSiO_2ゾルを用いたゾル・ゲル法によるポルーサイトの粉末合成法を確立した.合成条件として,ポルーサイト構造形成時のCsの役割を考慮した2段階加熱(600℃,24h→1400℃,10h)法を導入した.合成したポルーサイト粉末の単一相組成領域は、SiO_2/Al_2O_3モル比=1.69〜5.28,Cs_2O/SiO_2モル比=0.189〜0.255となり,化学量論組成を基準とするとAl_2O_3過剰組成方向に広がっていた. 合成したポルーサイト粉末の熱膨張特性は組成の影響を顕著に受けていた.Cs_2O/SiO_2モル比を小さくすることにより,ポルーサイト特有の熱膨張(室温から200℃)はほぼゼロとなり,さらに室温から1300℃までの熱膨張率を0.2%以下とすることに成功した.これは,ポルーサイト結晶構造内のCs量を化学量論組成よりも少なくすることで,結晶格子内の空隙の増加及び低温型α相の安定化が達成できたためと考察した. ポルーサイト結晶構造内のCs量の制御に,粉末合成時の化学組成及びNH_4Clを用いたイオン交換法を併用する新規な手法を開発した.この手法により調製したポルーサイト粉末の熱膨張挙動は,化学組成を制御して合成した粉末と同様であり,その熱膨張率は室温から1300℃まで0.1%程度とほぼゼロ熱膨張化することに成功した. ポルーサイトのゼロ熱膨張機構は骨格構造を形成するAl_2O_3四面体及びSiO_2四面体のゼロ熱膨張を反映したものであり,これら四面体の熱運動の自由度を結晶構造内で大きくすれば良いことが明らかとなった.
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