研究概要 |
キラルアミンはアキラルなカルボン酸との塩に導くことによりラセミ混合物として結晶化する場合がある。本研究はその要因の解明とラセミ混合物化させるための指針の確立を目的とする。そのため,カルボン酸第一アンモニウム塩の結晶構造解析を広範に行ない,ラセミ混合物結晶に特有な構造的普遍性の抽出を試みた。その結果,多くの場合カルボン酸とアミンは水素結合ネットワークにより成り立つカラムを形成し,塩の結晶はそのカラムの集合体となっていることが明かとなった。このカラムは大別すると2回らせん軸を持つものと対称心を持つものの二通りの様式に分類できる。ジアステレオマー塩,ラセミ混合物塩では当然前者の様式しか存在しないが,アキラル塩,ラセミ化合物塩では両者がほぼ拮抗する確率で出現する。即ち,ラセミ化合物塩にはカラムそのものがラセミ体である場合と,一本のカラムは光学活性であるが,逆の符号のカラムと1:1でパッキングするために全体としてラセミ体となる二種類の結晶構造が存在することを見出した。以上を総合すると,ラセミ体の塩では,結晶化の際形成されるカラムが対称心型の場合必然的にラセミ化合物塩になり,また,2回らせん型の場合ラセミ混合物になるかラセミ化合物になるかは同符号および異符号のカラム同士のパッキングポテンシャルの大小によって決定される。これを支配するのはカラムの外形とカラム間に働くvan der Waals力であり,分子力学法などの計算化学的手法によりある程度の予測は可能であると考えられる。 以上のように,キラルアミンがアキラルなカルボン酸との塩に導くことによりラセミ混合物を形成しやすくなるのは,光学活性な2回らせん型のカラムをかなりの高確率で形成することが第一の要因であることが判明した。さらに計算化学的手法を利用するラセミ混合物の予測に関する検討は今後の課題である。
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