研究概要 |
チオール類は特異な生理活性を有しており、医薬、農薬の合成中間体として重要な化合物である。本研究の目的は電極反応を利用してチオール基導入のテンプレートを合成し、このテンプレートを利用したチオール類の簡便な一般合成法を確立し、さらに光学活性チオール合成にまで展開することである。申請者らは電極酸化により窒素原子のα位にメトキシ基を導入できることを近年見いだしている。この電極酸化を利用して以下の研究を行った。 1)電極酸化α‐メトキシ化反応を利用してL‐リジンから光学活性双環α‐アミノチオールを合成した。このα‐アミノチオールはα,β‐不飽和エステルへのチオール基移動のテンプレートとして働くことを明かにし、その際、α,β‐不飽和エステルの構造に依存して大きさの異なるエナンチオ選択性が発現することを見いだした。即ち、β‐アルキル置換エステルであるクロトン酸エステルへはエーテル中、グリニャー試薬を塩基とすることにより最高88%eeでチオール基を移動させることに成功した。さらに、α‐アルキル置換エステル、cisおよびtrans‐α,β‐ジアルキル置換エステルへのチオール基移動の選択性も検討した。その結果、選択性にはα‐位置換基は殆ど影響しないこと、α,β‐ジアルキル置換エステルではジアルキル基がcisよりもtransの関係にある不飽和エステルのほうが高いジアステレオ選択性、エナンチオ選択性をもたらすことを明かにした。例えば、チグリン酸エステルの場合にエナンチオ選択性はエリトロ体で95%、トレオ体で93%、一方、アンゲリカ酸エステルのエナンチオ選択性はそれぞれ63%、54%であった。 2)L‐リジンから光学活性単環α‐アミノチオールを合成し、この化合物は前述の双環α‐アミノチオールと逆のエナンチ選択性を示すチオール基移動テンプレートとして働くことを見いだした。 3)L‐リジンから光学活性α‐アミノアミンの合成に成功し、これを不斉デイールスアルダー反応に応用した。
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