研究概要 |
本研究では,生理活性ペプチドの酵素合成の例として,アスパルテーム前駆体の酵素合成反応を取り上げ,酵素反応と同時に反応生成物を抽出および晶析操作により分離する生成物分離型バイオリアクターを開発し,酵素反応-抽出・晶析分離操作における素過程を解析し,実験結果と比較検討することにより,生理活性ペプチドの酵素合成のための高効率バイオリアクターの設計・操作法の基礎を確立することを目的として研究を行った。 本研究では,特に,遊離酵素水溶液を予めリアクター内に仕込み,原料基質を含む有機溶媒のみを連続的にリアアクター内に供給する新しい操作法を開発した。本合成手法においては,4種の主要な素過程,すなわち,(1)有機溶媒中より酵素水溶液中への原料基質の抽出,(2)酵素水溶液中におけるペプチドの酵素合成反応,(3)酵素水溶液中より有機溶媒中への生成物の抽出,(4)有機溶媒中における生成物の晶析,から成り立つ。 本法に基づき,アスパルテーム前駆体の酵素合成反応の連続実験を行い,さらに各素過程を考慮して,水相・有機相中の原料基質・生成物濃度および転化率等に及ぼす諸操作条件の影響に関する理論的解析を行った。 実験結果は解析結果に極めて良く一致し,本合成法においては,酵素反応速度およびアミン基質・生成物の抽出速度はかなり大きく,有機溶媒中から酵素水溶液中へのカルボキシル基質の抽出が律速過程になることが明らかとなった。これより,有機溶媒の滞留時間および撹拌速度を増加しカルボキシル基質の抽出速度を増加することにより,100%に近い転化率を得ることが可能であることが明らかとなった。 本合成法により,極めて高い効率でペプチドの連続酵素合成が可能であり,遊離酵素を連続的に利用し得る点で,アスパルテーム前駆体のみならず,他の多くのペプチドの酵素合成に適用し得るものと期待される。
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