研究概要 |
本研究では,米粒のシンク活性の制御要因の候補として発育粒中の内生ABA含量とショ糖合成酵素(SS)活性を取り上げたが,これらはいずれも,出穂後の粒発育に伴う変化パターンが粒の発育状態と密接な平行関係にあることが明らかとなった.このことから,これら2要因が米粒発育過程自体の制御に対して何らかの役割をはたしていることが強く示唆された.一方,本研究結果は,これら要因のうち内生ABA含量の遺伝変異は粒発育過程あるいは粒のシンク活性の遺伝変異と相関関係にないこと,またSS活性の変異は粒当たりで表現した場合にのみ粒重増加速度等と正の相関を示すが,これは見かけ上のものであり,むしろ増加速度,最終粒重の変異の結果として生じていることを明らかにした.従って,内生ABA含量もSS活性もともに粒のシンク活性の遺伝変異の直接の原因である可能性は低いことが推察された.このことから,収量性育種の一戦略としてのシンク能力の遺伝的改良は,一般的にいえばシンク活性よりはシンク容量の改良を通じてなされる方がより有効であると推察される.しかし,本研究で得られた一般的な傾向を破るような突然変異体,即ち,高く持続的なSS活性を示し,これに起因する高いシンク活性をもつようなもの,を探索あるいは誘発してこれを育種的に利用することは今後の課題として重要であると思われる.また本研究では,イネの一次枝梗上粒(強勢頴果)と二次枝梗上粒(弱勢頴果)の間の粒重増加速度,最終粒重に関する差異は,内生ABA含量ではなく,SS活性の差によることが示唆された.このことから,イネの穂全体の登熟性を向上させる一手段として,発育中の二次枝梗上粒のSS活性がより高いような遺伝子型の探索,もしくはこの粒着生位置のSS活性を増大させるような栽培方法の開発が考えられる.
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