研究概要 |
熱帯の重要な永年生作物であるコーヒー属の主要栽培種を材料として,体細胞胚形成による大量苗生産法を確立することを目的とした.雑種性樹木類では優良樹の大量苗生産には,成木を材料とする必要があるが,従来のほとんどの例は幼植物を用いられている.本研究では,熱帯樹木コーヒーの主要な栽培種アラビカ(Coffea arabica),カネフォラ(C.canephora)成木の葉切片を材料とし,体細胞胚形成について調べた.サイトカイニンのみを含む寒天培地中でembryogenicなカルスが形成され,さらに体細胞胚へと分化し,同培地で幼植物へと生育した.両種の再分化幼植物を鉢上げしたのち温室で栽培し種子を収穫した.これらの体細胞胚形成の効率化をはかり,大量胚形成のための培養法を確立することができた.他のCoffea属についても検討したところC.libericaは体細胞胚形成能のないカルスの形成がみられ,そのカルスを培養することにより非常に希に胚形成がみられ,アラビカ,カネフォラと異なっていた.他のCoffea属の種もそれぞれ3様の反応に分類された.また,アラビカとカネフォラ種のembryogenicカルスからのプロトプラストの培養系を確立し,その培養から体細胞胚が得られた.2種のプロトプラストをそれぞれ別の蛍光試薬を処理し電気融合させる諸条件を検討し,その融合細胞をマニュピュレーターを用いて分離,培養を試みた.融合細胞からの体細胞再生には至っていないが,その基礎的な諸条件を確立することができた.コーヒー種子は長期に保存できないため,体細胞胚をアルギン酸ビーズに埋め込み人工種子として超低温貯蔵を試みた.体細胞胚を蔗糖溶液で処理し,一定水分含量条件にして液体窒素で保存することにより長期保存が可能であることが認められた.これらは,熱帯資源植物の保存と育成に多大の貢献となると考えられた.
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