研究概要 |
ニホンナシの不和合遺伝子(S遺伝子)を同定し、それらをニホンナシの裁培や育種に応用することを目的にタンパク質・核酸レベルからの研究を行った。 花柱タンパク質の等電点電気泳動分析により、S_1〜S_5の遺伝子型に対応するタンパクバンド(Sタンパク質)が検出できた。これらは花柱特異的であり、後代のS遺伝子型に対応した遺伝様式を示し、花柱の発育に伴って増加することからS遺伝子の産物としての条件を満たしていると考えられた。また、S_1,S_3,S_5バンドは明らかにRNase活性を示した。S_2とS_4バンドについては、バンドのタンパク量が少なかったため活性が不明瞭であったと思われる。不和合反応におけるRNase活性の役割については明らかにできなかった。 Sタンパク質はほとんど全てが可溶性タンパクとして花柱内に存在しており、柱頭部、花柱上部、花柱下部にほぼ均一に分布していた。このことは、Sタンパクが花柱の誘導組織に存在すると仮定すれば、花柱の基部にゆくに従って濃度が濃くなっていることになり、自家花粉管生長抑制パターン部位と良く一致する。しかし、自家花粉管生長が促進されるCO_2や温湯処理によってSタンパク質の質的・量的変化は認められず、RNase活性抑制も観察されなかった。 自家和合性の‘おさ二十世紀'と自家不和合性の‘二十世紀'のSタンパクバンドを比較した結果、‘おさ二十世紀'のS_4バンドが薄いことが認められた。また、Sタンパクのバンディングパターンから、S遺伝子型の不明であった数品種の遺伝子型を以下のように推定できた。‘長寿':S_1S_5,‘筑水':S_3S_4,‘喜水':S_4S_5,‘豊水'S_3S_3。 S_4タンパク質のN末端から20個のアミノ酸配列を決定した。この配列は既に報告されているナス科のものとは全く異なっていた。
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