研究概要 |
エンドウ褐紋病菌サプレッサーの構造決定を行い、第一次作用点と考えられるエンドウ原形質膜の機能、特に膜情報伝達系と原形質膜ATPaseに対する作用について調べた。 1.サプレッサーの構造と原形質膜ATPase阻害機構の解析 褐紋病菌の生産する2種のサプレッサーの構造をGalNAc-Ser-Ser-Gly及びGal-GalNAc-Ser-Ser-Gly-Asp-Glu-Thrと決定した。阻害活性に関与する構造を明らかにするために、これら2種のサプレッサーと11種の合成ペプチドを用いてin vitroでの効果を調べた。阻害効果を示した8種のペプチドについて動力学的解析を行った結果、拮抗型(SSGDET,SSG,SSGTED)、非拮抗型(DET,GDE及びSupprescin B)と混合型(TSGDET,SSGD,GDET)に分類できた。さらに、非拮抗型阻害を示した3種が原形質膜酸性ホスファターゼ活性を阻害することが判明した。以上の結果は、サプレッサーがATPaseのATP結合部位並びにホスファターゼ部位に作用していることを強く示唆する。 2.病原菌シグナルのエンドウ原形質膜情報伝達機構に対する作用 褐紋病菌の生産するエリシターとサプレッサーを用いてエンドウ防御応答に関与する情報伝達系を解析した結果、ポリホスホイノシチド(PI)代謝系の重要性が明らかとなった。水性2層分配法で調製した原形質膜画分において、(1)PtdIns及びPtdInsPキナーゼはエリシターで活性化し、サプレッサーの共存下にはこの活性化は顕著に抑制されること、(2)IP_3生産もエリシターで増高し、サプレッサーで抑制されることからPLC活性もリピッドキナーゼと同調的に菌シグナルで制御されること、また、原形質膜画分では、(3)リゾホスファチヂン酸やリゾ型PtdInsP生産がエリシター処理で増加し、サプレッサーの共存下には抑制されることから、PLA活性についても同調的な制御を受けることが判明した。このエンドウ原形質膜における情報伝達系はATPaseとcross-talkしている可能性が強く示唆された。 3.エンドウ健全組織に存在する褐紋病菌サプレッサー様の活性物質を得た。本物質はアスパラギン結合型糖ペプチドであった。基本的な親和性(basic compatibility)に関与する物質であるものと想定した。
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