研究概要 |
植物の自己防御タンパク質の1種であるキチナーゼについてその構造と機能の関係を明らかにする目的でヤマノイモキチナーゼの精製,構造解析及び局在部位の同定を行ったまず,タンパク質化学的にキチナーゼの性質を調べるため4級アンモニウムイオン系界面活性剤を適用した新しい精製法を確立した精製されたキチナーゼについて構造解析を行った結果,高分子キチナーゼはクラスI,低分子キチナーゼはクラスIIIキチナーゼであることが明かとなった.さらに立体構造の情報を得るためクラスIキチナーゼについてS-S結合の位置の同定を行った.その結果、クラスIキチナーゼで初めて主構造部分の3ヶ所のS-S結合の位置を同定した.この位置を共通の主構造部分を有するクラスIIキチナーゼのS-S結合の位置と比較したところ,大麦キチナーゼの位置とは完全に一致したが,ライ麦の位置とはC末端部分で異なっていた.このことからキチナーゼの主構造部分のC末端部分は立体構造的に不安定な構造であることが示唆された.さらに,植物のキチナーゼの構造的相関を明らかにするため分子進化学的解析を行った.作製した分子系統樹からクラスIキチナーゼの主構造部分とクラスIIキチナーゼはそれぞれ明確なサブクラスが見いだされた.これらのサブクラスは分子内に欠失を有する低分子サブクラスと欠失を有しない高分子サブクラスであり,後者はこれらの祖先型と推定された.一方,クラスIIIキチナーゼには明確なサブクラスは見いだされなかった.次に内在性キチナーゼの組織局在性を免疫組織化学染色により調べた.クラスIキチナーゼは植物のほとんどすべての器官に発現し,特に幼若期に発現していることが明かとなった.クラスIIIキチナーゼは貯蔵器官に特異的に発現していることが明かとなった.このことからクラスIキチナーゼとクラスIIIキチナーゼが異なる生理作用を担っていることが示された.
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