研究概要 |
前年度の実験より,細胞のホウ素のほとんどが細胞壁に局在していることが示されたので,本年度は細胞壁中のホウ素の存在形態について検討をすすめた。前年度はタバコ培養細胞を実験材料としていたが,多量に細胞壁が必要になったため実験材料をダイコンに変更した。 おろし金でおろしたダイコンオロシを凍結乾燥して粗細胞壁を調製した。これに細胞壁分解酵素ドリセラーゼ(協和醗酵)を作用させホウ素の挙動を調べたところ,細胞壁に含まれるホウ素のほとんどが酵素処理液上清の非透析画分に回収されホウ素が細胞壁多糖と会合して存在している可能性が示唆された。そこでこの上清に対し,イオン交換クロマトグラフィー,分子ふるいクロマトグラフィーなどをホウ素濃度と糖/ホウ素比をマーカーとして行いホウ素を含有する多糖鎖を精製した。この多糖の分子量は7,000,構成糖はウロン酸52%,アラビノース17.4%,ガラクトース4.9%,ラムノース9.8%のペクチン質多糖の一種ラムノガラクツロナンであった。ホウ素11-NMR分析より,この糖鎖1分子当り1分子のホウ素がホウ酸の形で糖水酸基と結合していることが明らかになった。この糖鎖に会合したホウ素は細胞壁全ホウ素の60%近くであり,精製操作中のホウ素の脱落を考慮すると,細胞壁のホウ素のほとんど全てがこのペクチン質多糖に結合して存在していると判断された。ホウ素含有多糖を単離したのはこの報告が初めてである。
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