研究計画にしたがって種々の食品関連酵素について、加圧による失活酵素の再活性化について検討した。 (1)カタラーゼ(四量体):3000気圧の加圧で失活させた酵素(残存活性60%)を1000〜2000気圧で再加圧すると、10分程度の加圧で活性は、ほぼ100%まで回復した。これらの結果はカタラーゼの解離会合平衡(四量体(〕 SY.dblarw. 〔)二量体(〕 SY.dblarw. 〔)単量体)の速度過程が加圧により影響され、活性種(四量体)の増加へとドリフトすることを示唆している。このような加圧による再活性化は、凍結融解、凍結乾燥および加熱により失活した酵素については観察されなかった。 (2)ラクターゼ(四量体):この酵素の加圧変性は可逆的であるが、脱圧後の活性は加圧前の活性より大きく上昇した。同様の再活性化は室温一晩放置により失活した酵素についても観察され、500気圧で繰り返し加圧することにより、2倍程度まで活性が回復することがわかった。しかし、加熱失活酵素では再活性化は観察されなかった。 (3)その他の酵素:アルドラーゼ(四量体)、マレートデヒドロゲナーゼ(二量体)および単量体酵素であるリパーゼとペルオキシダーゼについても同様に検討を行ったが、加圧による再活性化条件を見いだすことができなかった。 本研究の結果から、加圧による失活酵素の再活性化は限られた条件下での現象のように見えるが、再活性化には少なくとも解離会合平衡のドリフトが関与しているものと考えられる。当初、酵素活性のみでなく、熱力学や速度論的解析を通して構造のドリフトの機構解明や、固定化酵素・実際の食品系での失活酵素の再活性化も検討する予定であったが、今後の課題として残っている。
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