研究概要 |
付加価値の高い光学活性アルコール類を得るための有効な手法である微生物還元法において,糖の分解エネルギーを利用する方法より実用性の高い,筆者らが開発したエタノールの分解を利用する方法に関する基礎的知見を得,さらに実用性を高めることを目的とし次の二つの観点からの研究を行い,以下の成果を上げることができた。 1.エタノールをエネルギー源として利用する微生物のスクリーニング 好気的条件下,エタノールの酸化エネルギーに基づくNAD(P)Hの再生反応と共役する還元系が微生物の中で分布している様子を明らかにするため,酵母,カビ,細菌をそれぞれ培養,集菌を行い,グルコース,エタノールあるいはアセテートの存在下でアセト酢酸エチルおよびアセトールの不斉還元を行った。その結果,酵母についてはグルコースとほぼ同等にエタノールが還元のエネルギー源となり得ることが明らかになった。また,カビについてはグルコースはエネルギー源とするが,エタノールは利用せず,一方細菌については逆にグルコースは利用しないが,エタノールを効率よくエネルギー源とするものが多く見られた。 また,Saccharomyces cerevisiaeについてNAD(P)H再生系を検討した結果,NADHの再生はエタノールから酢酸への酸化過程と共役し,一方NADPHの再生は酢酸から炭酸ガスへの酸化過程と効率よく共役することが明らかになった。 2.酸素供給に関する酵母の培養条件と還元能 エタノールの酸化過程が効率よく環元反応と共役するSaccharomyces cerevisiaeについて,酸素供給に関する培養条件と補酵素再生能の関係を詳細に検討した。その結果,より嫌気的条件で培養した酵母はエタノールを補酵素斎生のエネルギー源とする能力が低いことが明らかになった。その理由を酵素活生の面から追及した結果,より嫌気的条件で培養した酵母はアルコールデヒドロゲナーゼはほとんど変わらないにもかかわらず,アルデヒドデヒドロゲナーゼ活性が大きく低下していることによることを明らかにした。
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