研究概要 |
西表島ウダラ川マングローブ水域における平成4年9月〜11月と同5年8月の5回に亘る魚類採集などから,この水域の稚仔育成場としての役割について検討した.この調査期間には,小潮〜大潮期を含むようにした. 調査場所の満期時の水深は,小潮期には約50cm大潮期には約120cmとなり,干潮時には小潮期であっても干出することがあった.水温・塩分は潮汐周期に影響され,上げ潮時には網取湾から高水温・高塩分の海水が入った.ウダラ川河口の浅瀬(シル)で暖められた海水が入るため,高水温は日中の上げ潮で著しかった.魚類採集は,夜間と昼間の満潮時に網を張り,下げ潮時に採集した.5回の調査により,合計13科16種(含未同定5種)323個体を得た.4種が全調査に出現し,このうちコモチサヨリは稚魚から成魚期を過ごすと推定された.これらの4種の消化管内容物はそれぞれ異なり,コボラは藻類やデトリタス,アマミイシモチは端脚類や浮遊性カイアシ類,ツムギハゼは端脚類,多毛類やメイオベントスをそれぞれ食べていた.コモチサヨリは昆虫とくにアリ類を食べ,デトリタスに依存しないと考えられた.アリ類や端脚類などの消化管内容物は,動物プランクトン試料にも含まれていた.4種の8月の餌料は,放出されたばかりの各種甲殻十脚類幼生など多様な生物から構成されるのに対し,11月には単純となった.これには,気温や水温の低下が関係すると考えられる. ウダラ川マングローブ域には各種カニ類,エビ類,オカヤドカリ類が生息し,これらのゾエア幼生は,繁殖期には半月周期で放出され,メガローパやグラウコトエ幼生などに成長して海から戻る.これらはいずれも魚類の餌料生物として出現した.このように,ウダラ川マングローブ水域は,8月〜11月の間は,魚類の稚仔などに対して餌料を提供する場として機能すると考えられる.
|