研究概要 |
下垂体前葉のACTH細胞で分泌されるペプチドは,中葉のMSH細胞と同様に,プロオピオメラノコルチン(POMC)と呼ばれている共通の前駆体から生成されるが,両者の細胞型でプロセシングの様式は異なる。近年,分子細胞生物学の発展にともない,POMCの細胞内プロセシング酵素としてPC1/PC3とPC2の2種類が同定され,その性質が明らかにされつつある。プロセシング酵素が細胞内のどの部位に局在し,どのような機構で活性化され,また組織特異的なプロセシングの相違を引き起こすのかを,プロセシング酵素レベルで解明するために,PC1/PC3およびPC2に対する抗体を作製した。1.PC1/PC3およびPC2のアミノ酸配列から,親水性でかつ両者のアミノ酸配列の相同性の低い領域を選び,その部分をペプチド合成し,ウサギに免疫し,特異抗体を得た。2.また,PC1/PC3およびPC2のcDNAを導入した大腸菌から精製したプロセシング酵素タンパク質を免疫抗原として,抗体を得た。3.PC1/PC3およびPC2に対する抗体は,魚類から哺乳類の種々の内分泌細胞を染めた。 4.下垂体の前葉では,PC1/PC3が,また中葉では,PC1/PC3とPC2がそれぞれ分泌果粒に存在した。5.ラットやマウスの前葉では,ACTH細胞以外にもGTH細胞が染色された。これらの結果はPC1/PC3がPOMCからACTHの切り出しに,またα-MSHの切り出しにはPC2が必要であることを示唆している。GTH細胞のPC1/PC3の存在はゴナドトロピン以外のタンパク質のプロセシングに関与している可能性が高く,興味が持たれる。今後さらに,前葉と中葉のPOMC細胞における個体発生におけるプロセシング様式の変換過程をプロセシング酵素との関連性から解明したい。
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