研究代表者が先に樹立したラット下垂体培養細胞株、MtT/Sは通常の培養液では成長ホルモンを産生しプロラクチンを作らないが、インスリンかインスリン様成長因子を作用するとプロラクチン細胞に分化転換する。一方、MtT/S細胞をインスリンと共に上皮成長因子(EGF)を作用すると成長ホルモンとプロラクチンを同時に産生するソマトマンモトロフが出現した。これはEGFによって成長ホルモン産生細胞からプロラクチン細胞への分化転換が促進されたためと考えられた。また、下垂体前葉に出現するソマトマンモトロフは成長ホルモン産生細胞からプロラクチン細胞への分化転換過程にある細胞であることが示唆された。EGFの刺激によって出現したソマトマンモトロフおよびプロラクチン細胞の細胞増殖能との関係を調べるためにBrDUの取り込み実験とモノクロナル抗体によBrDUの染色を行なって増殖細胞を標識し、同時にプロラクチン細胞の免疫細胞化学的染色を行なった。この結果、成長ホルモン産生細胞から分化転換したプロラクチン細胞は特異的にその細胞増殖が阻害されていた。この現象は先にEvansら(Nature339、1989)によって発表されたプロラクチン細胞はterminal differentiationした細胞で増殖能がない細胞であるとの考えと一致する。しかし、動物の下垂体ではプロラクチン細胞はエストロゲンの刺激によってもっとも旺盛な増殖を示す細胞であり、in vitroの結果と大きく食い違う。このことはプロラクチン細胞の増殖を促す未知の細胞増殖刺激因子の存在を示唆するものである。このために最近、下垂体細胞の新しい成長因子として紹介されたインターロイキン-6やガラニンなどの物質を、エストロゲンの存在下もしくは非存在下で分化転換したプロラクチン細胞の増殖刺激効果を調べた。しかしいずれの条件でもプロラクチン細胞の増殖を促す条件を見つけていない。今後引き続き検討したい。また、下垂体前葉で腺細胞の分化を細胞間相互作用によって制御すると考えられる濾胞星状細胞由来と考えられる細胞株を新しく樹立し、その細胞の機能制御機構を明らかにした。今後引き続きこの細胞と腺細胞の分化制御機構との関係を明らかにして行きたい。
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