研究概要 |
カルシウム/カルモデュリン依存性プロテインキナーゼのひとつであるミオシン軽鎖キナーゼの着床前発生への関与を調べるために,この酵素の選択的阻害剤であるML-9を培養条件下でB6C3F_1マウスの着床前胚に作用させて,胚に起る変化を観察した。 まず,胚を2細胞期からML-9を1-20μM含む培地で4日間培養したところ,胚の発生に用量依存性の影響が認められた。すなわち,ML-9の1μMに暴露された胚は対照と同様に発生したが,5μMに暴露された胚のなかにはcompactionを起さないものがあり,20μMに暴露された胚の大部分で4細胞期より先へ発生が進まなかった。ML-9の0(対照),1,5,10,15および20μMに暴露された胚の培養4日目における細胞数は,それぞれ103.5,100.2,16.2,11.3,7.4および3.9であり,5μM以上のML-9に暴露された胚の細胞数は対照の胚のそれよりも有意に少なかった。 つぎに,4細胞胚,8細胞胚,compactionを起している8細胞胚および初期胚盤胞を10μMのML-9に12時間暴露し,ML-9に対する胚の感受性の発生段階による違いを検討した。その結果,初期胚盤胞はその75%が虚脱し,最も感受性が高いことがわかった。それに対して,4細胞胚では影響が最も少なかった。8細胞胚ではcompactionが,compactionを起している8細胞胚では胚盤胞腔の形成が,それぞれ抑制された。ML-9への暴露終了後,胚を正常培地へ移すと,大部分の胚は胚盤胞にまで発生した。しかし,それらの胚盤胞の細胞数を調べたところ,4細胞期にML-9に暴露されたものを除き,細胞数は対照と比較して有意に少なかった。 以上の結果は,ミオシン軽鎖キナーゼがマウスの着床前発生に関与することを示唆している。
|