研究概要 |
本研究では,リンパ管内皮細胞由来のリンパ管平滑筋細胞に対する収縮・弛緩因子と体系的に解析し,血管系におけるそれらの物質との量的・質的差異を明確にさせ,その生理学的意義を解明することを研究の目的とした。 その結果,リンパ管内皮細胞にはアセチルコリン(ムスカリン)受容体やヒスタミン受容体が存在し,この受容体が刺激されると内皮細胞よりnitric oxde(NO)が産生,放出されることが判明した。このNOはリンパ管平滑筋のグアニレートサイラーゼを刺激して弛緩反応や自発性収縮のリズムや振幅を抑制することが明らかになった。さらに,このNOの産生能には著しい部位差・種差が認められ,胸管におけるリンパ管内皮細胞ではその産生能力が高く,腸間膜リンパ管系ではNO産生能の低い傾向にあった。またウシに比較して,サル,イヌ,ブタのリンパ管内皮細胞でNO産生能が高い傾向を示すことも確認された。 さらに,本研究において,イヌ胸管内皮細胞をコラゲネースを用いて化学的に剥離し,その細胞塊を使用してリンパ管内皮細胞の初代ならびに継代培養することに成功した。このリンパ管内皮細胞にFura-2AMを負荷し,ヒスタミン作用時の内皮細胞内Ca^<2+>濃度動態変化を画像ごとに解析したところ,作用直後の一過性のCa^<2+>濃度上昇をそれに引き続くプラトー型のCa^<2+>濃度上昇がすべての内皮細胞で確認された。このCa^<2+>濃度上昇に一致して,リンパ管内皮細胞からは多量のNOが産生・放出されていることが示唆された。すなわち,拘縮状態にあるイヌ大腿動脈標本に,ヒスタミン投与後の培養上清を滴下投与すると著明な弛緩反応が誘起された。この弛緩反応はバイオアッセイ動脈標本の内皮細胞を剥離しても,点滴保生液に抗ヒスタミン剤を前処置を施しても全く影響を受けず,培養上清にL-NMMAを処置すると抑制される事よりNOと確認されたのである。
|