研究概要 |
中枢神経細胞死とムスカリン様アセチルコリン受容体応答の関係を解明すべく企画された本研究において平成4年度は,非神経毒性トレーサーで同定した大脳皮質細胞と海馬錐体細胞のムスカリン受容体応答の分類と同定,平成5年度は,その細胞内機序の解析を行って,以下の知見を得た。 保持電位-40mVに膜電位固定した大脳皮質細胞にアセチルコリン(10^<-5>M)を急速投与すると大多数のニューロンで持続性の内向き電流のみ惹起し,その電流は電流電圧関係から,Mチャンネルの閉鎖によることが示唆された。この内向き電流はニコチンの投与では惹起されず,ムスカリンによっても同様に惹起された。各種ムスカリン受容体アゴニストの作用強度を比較した結果,同内向き電流がM1型ムスカリン受容体を介して発現していることが示唆された。さらにムスカリン受容体アンタゴニストの拮抗作用の強度順位からも同様の結果が得られた。同様の条件で海馬錐体細胞にアセチルコリン(10^<-5>M)を急速投与すると一過性の外向き電流のみを発生させる細胞,持続性の内向き電流のみを発生させる細胞,および一過性の外向き電流に引き続く持続性の内向き電流を発生させる細胞の3種に分類された。このうち一過性の外向き電流はM1,M2受容体を介するものでないことが示唆された。また各種ムスカリン受容体アンタゴニストの拮抗強度の順位もM2受容体の関与を否定した。したがって海馬におけるアセチルコリン惹起一過性外向き電流はM3受容体を介して発現している可能性が高いことが示唆された。 各種の細胞内二次伝達系の阻害物質を用いて検討した結果,本研究におけるムスカリン受容体応答の情報変換機構は,イノシトール三リン酸(IP_3)合成系,IP_3依存性細胞内Ca^<2+>動員系およびカルモジュリン依存性プロテインキナーゼIIで構成されたシステムであることが証明された。
|