本研究は、前庭半規管による平衡調節に関わる中枢神経機構を明らかにするため、各半規管からの入力によって30以上ある左右の頚筋がそれぞれの半規管からどのような時空間パターンを持ってコントロールされているかを解析した。左右6個の各半規管からこれら各筋へどのような空間パターンで入力があるのか、また、その中枢神経回路がいかなるものであるかを明らかにするため、各半規管神経を単独電気刺激する方法を用いて、15種類の全ての頚筋への左右6個の各半規管からの入力パターンを運動ニューロンから細胞内記録を行って解析した。これにより各頚筋の運動ニューロンがいずれの半規管からも、主に2シナプス性の興奮性又は抑制性入力を受けること、さらに脳幹の下行路である内側・外側前庭脊髄路のいずれの経路を取るのかが明らかとなった。 以上から、6個の半規管から15対の頚筋への入力様式が明らかとなり、それぞれの頚筋がいかなる方向への頭部の運動に寄与しているかが判明した。この結果から、単一半規管からの入力によって興奮(又は抑制)受ける頚筋群(機能的シナジー)が同定出来た。我々はこれまでの形態学的研究から、ある半規管から入力を受ける頚筋群の運動核は、その半規管入力を受ける単一前庭脊髄路細胞の軸索分枝によって同時に支配されているという作業仮説を考えてきた。本研究で得られた結果は、単一前庭脊髄路細胞の軸索分枝のパターンと極めてよく一致し、機能的シナジーはこの分枝のパターンで中枢神経内で規定されていることが明らかになった。
|