研究概要 |
我々はマウスを脳シナプス膜分画で免疫し,ω-コノトキシン感受性(N型Caチャネル)^-を免疫沈降させる2種の単クローン抗体を得ているがこの抗体はN型Caチャネル分子そのものを認識するのではなく,それに結合していると考えられる分子量36kDaおよび28kDaの蛋白質を認識する。今回,この抗体に結合する分画を抗原として再びマウスを免疫して,数種類の単クローン抗体を得た。しかし,これらの抗体はいずれもN型Caチャネル分子を沈降させるものの,イムノブロットによって抗原が明確に検出できなかった。膜分画のジギトニン抽出物を放射性ヨードで標識して,これらの抗体で免疫沈降を行うと,分子量50-230kDaの範囲に数本のバンドが検出された。これらのバンドのうちの一部はN型Caチャネル分子のサブユニットであると思われるが,特定できなかった。その後,N型Caチャネル分子の生化学的な精製を試みたが,現在に至るまで成功していない。 本研究の目的は脳N型Caチャネル分子とその作用機構の解明にある。そこで,別のアプローチとして,N型Caチャネルの活性制御に関係すると予想される上記の36kDa蛋白質を追究した。この蛋白質の部分アミノ酸配列に対するオリゴヌクレオチドプローブを作製して,ウシ脳のcDNAライブラリーより,そのcDNAをクローニングした。その結果,この蛋白質はC末端に膜貫通部位を有する内在性膜蛋白質で,全体として親水性に富んだ新しい蛋白質であることが判明した。また,部分配列の一部に複数の残基が検出されたので,いくつカのアイソフォームが脳に存在するものと考えられる。抗体を用いた免疫組織化学的研究によって,この新しい蛋白質は神経系とパラニューロンにのみ存在すること,脳では大部分がシナプス前部に局在することが明らかになった。
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