研究概要 |
グルタチオン(γ-グルタミルシステニルグリシン=GSH)は生体内の主要なSH還元物質であり,活性酸素やフリーラジカルの消去のための低分子抗酸化物質として重要な役割を果たしていると考えられている。中枢神経系におけるGSHの役割を考察するに,最近培養系において,神経細胞よりグリア細胞の方が有意にその濃度が高いことが報告されている。他方,その生合成に対する律速過程は生体外からのシステイン(シスチン)の取り込みに大きく依っていると云われている。そこで我々は中枢神経系に属する神経網膜を用い,^<35>Sシスチンの取り込み(30分間)を施行し,そのオートラジオグラフィーを観察したところ,唯一ミューラー細胞(網膜グリア細胞)のみがポジティブであり,又^<35>SシスチンよりGSHの有意の生成が確認された。更にこのシスチン取り込みのイオン依存性を検索したところ,明らかにCl^-依存性であった。このことはミューラー細胞のシスチン/グルタミン酸対向輸送系(X〓)が局在して発現していることが強く示唆される。次いで網膜にストレス負荷をかける目的でグリア毒として知られている,α-アミノアジピン酸(α-AAA)を眼球内注射したところ有意にGSHが減少し,ERGb波、グルタミンシンセターゼ(いずれもグリアマーカー)が有意に減弱した。同様にGSH合成阻害剤の眠球内注射により,GSHの減少とERGb波の消失ないし減弱が見られ,GSH濃度とグリア細胞の機能との間に強い相関が見られた。以上の結果は,種々の酸化的ストレス負荷に際し,まずグリア細胞内のGSHが大きく関与し神経細胞への波及を未然に防いでいるのではないかという極めて魅惑的な仮説が提出され,今後実証にむけての更なる検索を進めているところである。
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