短時間の一過性脳虚血後、海馬CA1野では神経細胞死が発生するが同じアンモン角において隣接するCA3野では、同程度の虚血負荷が与えられているにも関わらず神経細胞死は発生しない。これまでの我々の研究では、一過性脳虚血中海馬CA1野において領域選択性に発生する高濃度の細胞内Ca^<2+>濃度上昇がセカンドメッセンジャーとして重要な機能を果たし細胞死決定因子として作動していることを示唆する結果が得られている。本研究では、細胞内Ca^<2+>濃度測定法およびwhole-cell voltage clamp法を用いて、虚血に対して比較的耐性を示すCA3神経細胞を対照としながら、一過性脳虚血中、海馬CA1野においてのみ観察されるこの高濃度細胞内Ca^<2+>濃度上昇の原因を検索した。その結果、CA1錐体細胞においてはCA3錐体細胞に比ベ 1.Ca^<2+>の流入を招くNMDA型グルタミン酸受容体の機能増大が存在する、 2.電位依存性のCa^<2+>チャネルを開くNon-NMDA型グルタミン酸受容体の機能増大が存在する、 3.細胞内において小胞体からのCa^<2+>放出を促すCa^<2+>induced Ca^<2+> release および IP_3 induced Ca^<2+>releaseタイプの機能増大が存在する、ことが明らかにされた。以上の結果は、海馬CA1錐体細胞においてはその受容体においてもCa^<2+>buffering systemにおいても細胞内Ca^<2+>上昇を起こしやすい機能が存在していることを示唆しており、これらの機能駆動により海馬CA1錐体細胞を死に導く高濃度の細胞内Ca^<2+>濃度上昇が一過性脳虚血中発生するものと考えられる。今後は、このように濃度上昇をしたCa^<2+>のsecond messengerとしての働きを検索することが虚血性神経細胞死の治療法の開発を考えるうえで重要な課題となるであろう。
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