カエル足筋より作製した単一筋線維に0.05%または0.005%H_2O_2を投与し、0.1Hzの周波数の電気刺激を繰り返し、単収縮の大きさの変化を観察した。収縮は一時的に濃度依存性に増強(0.05%または0.005%H_2O_2で1.46および2.09倍)後、抑制された。H_2O_2の増強作用は100nM Bay K 8644前処置で賦活された。H_2O_2の投与により起こる単収縮消失直前、溶液を10mM DTTと100Uカタラーゼを含むリンゲル液に置換したところ、単収縮は回復した。H_2O_2による単収縮消失後、外液Caイオンの有無に無関係に、リンゲル液中で持続性自発筋収縮が観察された。この収縮も10mMDTTと100Uカタラーゼにより抑制された。一方、H_2O_2はDTTのSH基に作用し、部分的に酸化した(分光光度計で測定)。用いた濃度のH_2O_2は静止電位、活動電位を変えなかった。また、skinned fiberを用い、H_2O_2の筋小胞体からのCa^<2+>遊離能を調べたところ、0.02%H_2O_2はカフェインによるCa^<2+>遊離を促進した。0.05および0.2%へとH_2O_2濃度を増加したとき、収縮が観察された。以上の結果は、H_2O_2は(1)SH基を酸化する能力を持ち、(2)膜蛋白質SH基の酸化により、Naチャネルと無関係に、単収縮を増強・抑制し、(3)細胞内に流入し、筋小胞体からのCa^<2+>遊離を促進する作用を持つことを示している。だから、H_2O_2はT管から筋小胞体への情報伝達の分子機序の研究に優れた試薬である。この試薬がT管膜に存在する電位センサーのSH基に作用し、筋小胞体への情報伝達を修飾するか否かを検討する予定である。現在、本研究費で購入したパッチクランプシステムの組み立てを終わり、装置のチェック中である。直径約300μmの小孔にリン脂質をマイクロピペットで吹き付け形成した脂質二分子膜(既に成功)に筋小胞体膜を組み込ませる条件を検討中である。T管膜にも応用し、両膜に存在するCaチャネル蛋白質に対するH_2O_2の効果を調べ、SH基の情報伝達機構に果たす役割を検討する予定である。
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